第1話

[ ファインダー ]

私は、公務員をしている33歳、二児の父親です。

私の課には、間もなく定年を迎える吉田さんと言う先輩がいます。 無口で寡黙な性格が災いして、課の仲間は、どちらかと言うと あまり、この吉田さんを好きではないようでした。 ただ私は、新人で入った時、この吉田さんには大変お世話になり、同じ課では、唯一私だけが吉田さんと仲良くしていました。

子が無く、奥様と二人暮らしの吉田さんは私を、自分の子供のように可愛がってくれました。

早くに、父を亡くした私には、まさに父親代わりの様な存在でした。 吉田さんの、趣味は写真を撮ることでした。 風景画をとても好んでいて、特にお気に入りは、富士山でした。

そんなある日、突然、目の異常を訴え、病院へ。 診断の結果、白内障である事が判明しました。 重度の白内障のため、視力が極端に低下し、大好きなカメラを再び握る事が出来なくなってしまいました。

その後、すっかり元気を亡くした吉田さんは定年前に、仕事を辞めざるを得なくなってしまったのです。 その後、私も忙しさにかまけて、会いに行く事が減ってしまいました。

そんなある日の事です。 私のデスクの電話に悲報が入りました。 吉田さんの死でした。
ショックでした。

急いで、駆けつけた時には吉田さんはすでに、荼毘に伏した後でした。 真新しい、仏壇の前で吉田さんとの思い出にふけっていた私に、奥様が、声をかけてきました。

「これを・・あなたに渡してほしいと主人が・・」 手渡されたバッグを開けてみると、なんと、生前とても大事にしていた、カメラ一式が入っていました。

「こんな大事な物、私がいただくわけには・・・」 少し戸惑い、こう言いかけたとき、 「是非、あなたに渡せと・・・形見のつもりで受け取ってください。」

バッグを受け取り、吉田さんに別れを告げ帰路に付きました。 自宅に帰り、改めて形見のバッグを開けてみました。 ニコンの一眼レフで、広角レンズ、300oの望遠レンズ、夜間撮影のためのストロボと、我が家にあるカメラとは比べ物にならない、それは高価な物でした。

その一つ一つが実に丁寧に手入れされている事から、吉田さんの性格がしのばれました。 (これは、大切にしよう!)


一週間後に次女の幼稚園のお遊戯会を控えていましたので早速私は、ここで試し撮りをする事にしたのです。 お遊戯会の当日、かわいらしい衣装を来た園児たちが、さまざまな歌や踊りを披露していました。

さて、いよいよ我が子のリズムダンスの番です。 私は、望遠レンズを付けたカメラを構えました。

幕が開き、あたりに歓声が上がったとき、ファインダー越しに娘の姿を探しました。 3人━4人━3人と別れて、オープニングのポーズを取る園児、音楽が流れる中、舞台中央の4人の先頭に、我が子を発見しました。

夢中でシャッターを切りまくりました。 あっという間に演技は終わり、幕が下りるまで私はファインダーを覗いていたのです。 (肉眼で見てないな〜)こんな事を思い苦笑いしたものでした。 カメラに夢中になる吉田さんの気持ちがこの時、少しだけ分かったような気がしました。 なんと、24枚取りのフィルムを3本も撮っていたのです。 こんな事は初めてでした。

早速、フィルムをカメラ屋に持ち込み、スピード仕上げをしてもらいました。 家族全員が出来上がりを楽しみにしていました。 出来上がった写真を持って自宅に戻り、皆でワイワイ鑑賞会をしていた時、あることに気が付きました。

それは、例のリズムダンスの写真です。 写っているのは・・・!!!
3人━3人━3人
その中央には確かに娘が居ます。

「あれ?おい、あやかのクラスに女の子は何人いる?」
妻に聞きました。

「9人よ。何で?」

「いや、10人だろ?」私は聞き返しました。

「女の子は9人よ!」娘が答えました。

「いや、そんなばかな・・・」

「どうしてそんな事聞くの?」
妻が不思議がっています。

「いや・・・確かに・・10人・・居たんだよ・・」

家族は笑ってそれ以上は取り合ってくれませんでした。

ファインダー越しに見ていた私だけが、確かに10人を目撃しているのです・・

はっきりと覚えています。 (3、4、3はとてもバランスがいいな〜) こう、思いながらシャッターを切っていたのですから・・・!

ところが、これだけでは終らなかったのです。
尚も写真を見ていたとき・・・! 発見してしまいました!吉田さんです!!!
数枚の写真に確かに吉田さんが写りこんでいるのです。
父兄の間から・・・園児に混じって・・・
さまざまなところに・・・・!
吉田さんの顔を知っているのは私だけです。 妻や子供たちは、知りません。 いったい・・どんな意味が・・

吉田さんは、未練を残していたのでしょう。

もっと、このカメラを使 いたかったに違いありません。

その後も、このカメラのファインダーを覗くと見えるんです、
肉眼では見えない人が・・・!


このファインダーは霊界ともつながっているのでしょうか?
吉田さんの思いがまだ、残っているこのカメラを私は、大事に愛用しています。

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