第4話
[ タクシー ]

私は、とある都市でタクシーの運転手を生業にしています。
大手のタクシー会社に席を置いておりますので、勤務体系は3交代制で週に2度は、夜勤となります。

言わずと知れたことですが、運転手仲間にも何人もいますよ、『乗せた・・』という人は・・・ わたしもその1人ですので、今回は1つご紹介します。

最近は世の中不景気ですから、タクシー業界もご多分に漏れずなかなかタクシーなんぞに乗ってくれる人も少なくなりましたがバブル全盛期の頃は、ロング(いわゆる長距離の事)のお客さんばかりでしたから、ほんと楽でした。

そんな、景気の良かった時代のお話です。 当時、S市で営業をしておりました。 その日は22時からの勤務でした。 勤務に就いて直ぐに1人の紳士を乗せました。 「K市まで」と、いきなりロングのお客さんです。 (今日はさいさきがいいぞ!)と思い、メーターを倒して出発しました。

S市からK市までは約1時間半位の道のりです。 問題は帰り、道々お客さんを拾いながら地元に戻って来なくてはなりません。 ここが腕の見せ所です。 時間がまだ早かった為その点では、割と安心していました。

これが、勤務終了間際ですと、いささか厄介ですが・・ とても感じの良い方で、世間話に花を咲かせながら快適に目的地までお送りする事が出来ました。

その後、K市で数名のお客さんを乗せましたが残念ながらS市にはなかなか近づきません。 時刻は、そろそろ2時を回っていました。 そろそろあきらめて、空の状態でS市に帰る事にしました。

途中の県道は山道になります。 午前2時頃となりますと、この県道を走る車はほとんどありません。 街灯も無く本当に寂しいところです。 県道に入ってちょうど半分位来た所でしょうか、「ドドーーン!」と言う物凄い音が前方から聞こえました。 (なんだろう?)と思い、いくつ目かのカーブを曲がった所に1台の車が横転している光景に出くわしました。

どうやら、単独事故のようでした。 少し離れたところに車を止め、降り掛けた時、横転した車の陰から1人の女性がふらふら歩いてきました。 「大丈夫ですかーー。」 私は大声で叫びました。 女性はこちらに向かって歩きながら 「私は、大丈夫ですが中の3人が、動かないんです。」と叫んでいます。

困った事に当時、私の車には無線機がありましたが、この場所ではまったく通じません。 携帯電話も圏外です。 民家も無いような山道です。 仕方が無いので私は車で最寄の交番まで連絡しに行く事にしました。

女性をその場に置いていくわけにもいかないので、後部席にその女性を乗せ、今来た道を引き返しました。 一番近い交番はココから2q程戻ったところにあります。 あわてて車を発進させました。 後で考えると、私も少しパニックを起こしていました。

本来ならまず、横転した車の中にいる人の救出が先のはずですが、そのときは、とにか誰か助けを呼ばなくては・・ とその事ばかりに気をとられていました。 女性も極度の興奮状態で、 「私のせいで・・私がわき見運転しなければ・・・3人が死んだらどうしよう・・・」 などとうわごとのように言って泣き崩れています。

私はどう慰めたらいいか・・ただただ大丈夫だからを繰り返していました。 やっとの思いで交番に到着しました。 慌てて車を降り交番に駆け込みました。 運良くそこにはパトカーが止まっており、警官が3人中にいます。

事故の状況を手短に話し私も、事故現場に再び行くことになりました。 車に戻ってみると後部席は、もぬけの空です。 先ほどの女性の姿がありません。 (もしかしたら、責任を感じての自殺??) とっさにそう思った私は、警官にその事を話して女性の捜索も頼みました。

が、どうしてもその女性が気になった私は、あたりを探して見ました。 何処にもいません。 やがて数人の警官がやってきたて 「ここは我々に任せて事故現場へ行ってください」 と言われましたので、しぶしぶ向かうことにしました。

現場へ到着してみるとすでに救急車2台とパトカーが数台事故を起こした車からの人の救助が進められていました。 私は、車中の人の安否が心配でしたがとても近くに行く気にはなれず、少し離れたところで見ていました。

すると私の姿を見つけた先ほどの警官が近寄ってきました。 「女性はまだ見つかっていませんか?」と尋ねました。 「まだのようです。ところで、車の中には何人乗っていたかわかりますか?」 と聞かれたので 「確か全部で4人だと思いますが・・・」と答えました。

「そうですか・・運転手さんの話とどうも、人数が合わないんですが・・」 「え?」 警官の言っていることが理解できず私は聞き返しました。

「いえね、車には4人乗っているんですよ・・ 男性3人女性1人、たった今運び出しました・・・ 交番まで連れてこられた女性を含めると5人乗っていたことになりませんか?」

「は〜確か車の中で女性が言っていたと思いましたので・・ 私の聞き間違いかもしれません」 「そうですか・・」 「ところで、4人は?」 安否を聞いて見ました。 「3人の男性は、幸い命に別状は無いようです。 女性は、救急隊の話ですと、首の骨が折れてほぼ即死の状態だと・・・」

警官の話を聞いているとき、運び込まれているタンカーに見覚えのある洋服が覗いています。 (まさかー!!) 「あのタンカーに乗っている人は?」 「亡くなった女性です。」 「確認してもいいですか?」 「構いませんが、大丈夫ですか?」

正直、見ず知らずの人の遺体を見るのは気味の悪いものですが確認せざるおえません。 恐る恐る白い布をめくって見ました。 (!!!) 何ということでしょう!

見覚えのあるブラウス、スカートそして、何よりも私が覚えていたのが女性にはふさわしくない左腕にはめられた男物の大きな腕時計です。 間違いありません。

この女性は、先ほど私が乗せた女性だったのです。 疑う余地はありませんでした。 全身に冷水を浴びたような衝撃でした。 私はふらふらと自分の車に戻りました。

「大丈夫ですかー」と言う警官の呼びかけに右腕だけを上げ・・・ 車に戻り、運転席に座り何気なくルームミラーを見たときです!! 先ほどの女性が座っています。 もはや頭の中はパニックです。 「本当にありがとうございました。」

女性は消え入る程の声でこれだけ言うと、スーっと消えてゆきました。 私は、警官に女性の捜索を打ち切ってもらうように頼みました。 本当のことを言っても、とても信じてもらえないと、思いましたので私の、思い違いと言うことにして・・・

以上が私の体験です。

 

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