第2話
[ 見知らぬ人 ]

これは私が、つい最近体験したお話です。
それまで私は、霊の存在など信じない生活を送っておりました。 どちらかと言うと、否定的で、テレビ等で心霊特集をやっていても何の興味も湧きませんでした。 そうです。今回の様な体験をするまでは・・・

7月に入って間もない頃、まだ、梅雨が明けていない初旬早くから、予約をしていた旅行に出かける事になりました。 とても、夏を感じる気候ではありませんでしたが、世間が夏休みに入る頃から私の仕事は忙しくなりますのでこの時期、我が家の夏休みは、毎年恒例になっています。

そんなわけで、2泊3日の旅行に出発しました。 道はガラガラ、観光地も人はまばらで、まさにゆっくりとした旅行を楽しむ事が出来ました。 「世間が働いている時にゆっくりと休みを取るのもわるくないな〜」 と、私は毎年この旅行になるとしみじみ思うのです。

そんな楽しい旅行も、あっという間に帰路についていました。 帰りの高速の道すがら、事故現場に遭遇してしまいました。 乗用車とトレーラーの事故のようでした。 例によって見物渋滞というもので、車の流れは人が歩く程の速度で、ゆっくりとなりました。

どうやら、事故現場は、私たちの走っている登りの車線のようでした。 現場に近ずくにつれ、その悲惨さが見えてきました。 トレーラーは、横転、その傍らには乗用車が見るも無残な姿で横たわっています。

事故直後と見えて、パトカーなどの緊急車両はまだ到着していない様子でした。 車の流れは、一車線になり、徐行をしながら無残な事故現場を通過するような状態です。

私たちも、徐行しながら注意深く車を進めます。 斜め前方に人が横たわっていました。 間違いなく事故の被害者です。 ピクリとも動かず、首だけをこちらに向けています。 (おそらく生きてないな)

「見るな!!」

私は、車内で大声を出していました。 家族には見せたくない状態でした。 その人の横を通過したとき!! (!!!)

目が合ってしまいました! 額から血を流し、まばたきもしていないところを見るとやはり・・・

たとえようの無い、恐怖感を感じました。 事故に対する恐怖感ではありません。 被害者の恨めしそうな目です。 私に何かを訴えかけるような・・・

帰りがけに強烈なものを見てしまった私は、旅行の疲れも手伝って、帰宅した頃には身も心もぼろぼろでした。 家族の楽しげな会話にも参加する気になれず、早々にシャワーを浴びて床に就く事にしました。


あくる朝、出勤時、異変はこの時から起こっていました。 玄関を出た時、私はドアーを閉めました。 背中越しに確かにドアーの閉まる音を聞きました。

3〜4歩歩いた時、携帯電話を忘れた事に気が付きました。
振り向いてもう一度玄関のドアーを開けようとした時・・・
なんと、玄関のドアーはすでに開いているのです。

「おかしいな〜」 と思いつつリビングに戻り携帯を探している時、背中を向けて洗い物をしている妻に、 「俺が出た時、一緒に玄関にきたか?」 と尋ねました。

「わ!びっくりした!出かけたんじゃなかったの?」
不意に声をかけられた妻の方が驚いている始末です。

「いや、携帯忘れたんで取りに戻ったんだけど・・ ずっと洗いものしてた?玄関には行ってない?」

私の妙な質問に妻は半ば呆れ顔で

「何言ってるの?ずっとここにいたわよ!どうして?」

「いや、なんでもない。じゃ、行ってくる」 呆れ顔の妻を残して再び玄関を出ました。

ただ、先ほどの様なことはおこりませんでした。

その日の会社での時間はあっと言う間でした。 溜まった仕事を片付けて、家路に付いたのは夜の9時を回ったころでした。 家に着きシャワーを浴びている時、直ぐ近くに人の気配を感じました。

今までには無かったことです。 慌ててシャンプーを洗い流して目を開けました!! 当然誰も居ません。

(やはり疲れているんだな〜) そう思いそそくさとシャワー室を出て、脱衣所で体を拭いている時! 首筋に、人の息がかかるのを感じました。

(そんなバカな!)

この時、私は今朝からの一見を思い出していました。

(朝、家を出る時・・・
そういえば会社でも・・・
今のシャワーの一件も・・・)

そうです!会社でも常に誰かに見られている感じがしていたのです。 うまく、言葉で言い表す事は出来ませんが、ある時は右後ろから・・ ある時は、左後ろから・・ また、真後ろから感じる事もありました。

これは、今日1日だけでです。 昼間の会社では、忙しさに飛び回っていましたので、あまり気にならなかったのですが、こうして今考えてみるにやはりいつもとは、違っていたように思います。

どんなに息を殺しても人の気配って分かるものですよね〜。 なんとなくいやな思いをしながら着替えを済ませ、ビールを飲みながらテレビを見ていました。

ニュース番組で昨日の事故を報道していました。 私は、テレビに釘付けになりました。 !!! やはり、道路に投げ出された1人は病院に運ばれ間もなく息を引き取ったと言っています!

(何と言う事!!)

私は、昨日見た光景が脳裏をよぎり、思わずテレビを消してしまいました。 (これ以上考えないようにしよう!) 私は、自分に言い聞かせ残りのビールを飲み干して床に就く事にしました。

布団に入ってもなかなか寝付く事が出来ません。 体は、疲れています。 アルコールも入っています。 こんな状態で、眠れないのは初めてと言ってもいいくらいでした。

何度も何度も寝返りをして、それでも眠りに付く事が出来ません。 さすがに、眠る事をあきらめ、もう少しアルコールをと思いリビングに降りました。

暗いリビングの扉を開け、手探りで電気のスイッチを探します。 その時! ふとテーブルの方に目が行きます。

!!! なっ何と!!

暗がりに人の影が動いています!!

同時に指に電気のスイッチが当たりました。 部屋が明るくなった時! そこには誰も居ません。 目の錯覚にしてはあまりにもリアルです。

ウィスキーをストレートであおり、急いで寝室に向いました。 慌てて寝室に向う時、足がもつれてあわや転倒しそうになりました。 いや、もつれたのではありません!

誰かが足を持ったのです!! もはや、疑う余地はありません。 見知らぬ誰かが我が家には居る! 人ではない何かが・・・

寝室に戻り布団をかぶって必死に目をつぶりました。 こんな時、どうしたらいいか全く見当も付きません。 ただただ、じっとしているしかありませんでした。 どの位そうしていたでしょうか? 足の方から、布団が沈む感触を感じます!

その重みは間違いなく人間の物です! ゆっくりと、私の左側、顔のほうに移動して来ました!! 恐怖はピークです! 固く目をつぶり、この恐怖が去ってくれるのをじっと祈るような気持ちで待つしかありません。 ところが去るどころか、だんだん顔に近づいてきます! 布団がゆっくりとまくられました!!

「ハーッ!ハーッ・!ハーッ・・!」 人の息が私の頬にかかります。 (目を開けてはいけない!!) 自分に言い聞かせました。

「私が、誰だかわかるな!」 耳元で声がします。

「・・・・」 (あの時の!!) 私は心の中でそう叫びました。 「そうだ!お前は見ていたな!」 (私の心の声が聞こえるんだ!!) 「ああ、聞こえてるよ!頼みがある事故現場にたばこを供えてくれ!」 (え?)

「たばこだよ、頼んだぞ!!」

(分かりました!!)

こう心の中で叫んだ時、不思議な事に気配が全く消えていたのです。 と、同時に私は深い眠りに付きました。

翌朝、目覚めた私は(あれは夢?) そう思い、ふと、布団に目を落としました!!! 何と、私の周りにはべったりと血の手形が無数に付いていたのです。

夢ではありませんでした。 確かに、昨夜来ていたのです!! その日、私は会社を休んで例の事故現場へ足を運びました。

そう、たばこを供えるためです。 高速道路ですが、私は危険を承知の上で、路側帯に車を止め、慎重に車外に出て、たばこを供えました。 成仏を願って・・・・!

その後は、もうこのようなことはなくなりましたが、私の、心にはハッキリとあの時の布団の中の出来事が刻まれました。

今思い出しても鳥肌が立つ思いです

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